ビーリナBílina

 ビーリナは、十世紀後半から地方行政の中心地として機能していた城塞が基になって都市にまで発展した、中世のチェコに典型的な街である。プラハとザクセンを結ぶ道の途中にあり、古くから、また頻繁に文献に登場する。だが、現在は取りたてて言うほどのこともない、地方小都市と化している。だから、普通のチェコ人に「ビーリナに行ってくる」と言えば、「友達でもいるの?」と聞かれる。そこで、「ビーリナはね、チェコで最も古い街の一つで、中世にはね……」とチェコ人に向かって説明する羽目になる。もちろん、中世史を専門とする筆者にとっては以前から訪れてみたい街の一つであり、そんなビーリナについに足を踏み入れたのは11月の末のことであった。

 その日はビーリナに泊まるつもりで、駅を出るとすぐにホテルを探した。といっても、街中を歩きまわったわけではない。事前に買っておいた街の地図によれば、この街にホテルは二つ。駅から広場に向かう途中にある「王冠」か、広場に面した「獅子」だけ。要はどちらが安くて設備が良いかである。

 駅を背にして右手に進み、ビーリナ川を眺めながらバス・ターミナルを通り抜けると、交差点の辺りに「王冠」が見えてくる――はずであった。ところが、そこにホテルの看板はなく、仕方がないので、そのまま広場の「獅子」へ。広場の反対側から看板を確認し、ホッとしつつも今度は値段が気になる。ところが、今度は理由不明の休業。電話帳で調べても、この二つ以外にホテルは載ってなかった。これまた仕方がないので、城だけ観て帰ることに。――しかし、三度目の「ところが」である。城へ向かう道は何故か封鎖されていた。他の道を探す気力も失せて街を後にしたのは、到着してからわずか30分後。楽しみにしていたビーリナの思い出は「敗退の記憶」だけである。